S課長の思い出
企業を動かしていく中で在庫管理をどうするか?というのは死活問題でどの業界の方も苦労していることと思います。
その中でも最終製品を作る現場というのは製造背景の異なる様々な部材を組み合わせて調整をしているわけで、このへんの勘所というのは単純な数値化で管理がしにくいところだなー、と思います。
私がまだ本当に若かった頃。
弱電関係の企業に就職し、初めての配属先は資材管理部でした。その部署の上司がS課長でした。一つの企業に42年間勤め上げたS課長は正に会社の生き字引でしたが、一徹者で直言居士な性格が災いし昇進には恵まれなかったようです。
私はS課長の後継として部署に配属されたのですが、”おれの評価は新人と同じか”とボヤいていたのを思い出します。
入社した当初はかなり辛く当たられました。そもそもが会社とS課長の関係が最悪に近い状態だった上に、ぽっと出の新人を自分の後継としてあてがわれたのですから「やれるものならやってみろ」とばかりにしごかれたわけです。あれは辛かった。
数か月が経ち、S課長が一縷の希望にしていた嘱託社員への夢が断たれ正式に退社が決定すると、後継の出来が悪いとおれの汚点になるからと言ってアドバイスをくれるようになりました。会社への未練を捨てたS課長は仕事の上では厳しかったけれども、素は飾らない優しい愛妻家の真面目な方でした。退社されてから御礼にお歳暮をお送りすると、こちらが恐縮してしまうくらいに丁寧な手書きの手紙を頂いたことを思い出します。
その当時にS課長に受けた薫陶が私の在庫管理思想(そういう用語があるのか分からないけど)の根幹になっています。若かった時に、S課長の在庫管理のやり方を学ぶことができて良かった。そして、もっと教わっておきたかったと今でも思います。
S課長はその後シルバーで紹介された職務上の事故で亡くなられました。そのニュースを聞いた時の感覚は何というか…こうして二十年近く経った今でもブログを書きながら手が止まってしまうような気持ちです。
昨日、LANDSCAPESの部材在庫と新開発用の部材を倉庫で整理をしながらふとS課長だったらどんな風に整理をするのだろう、と思い出しました。…きっと全て成っていない。一からやり直せ。こういう在庫管理ではダメだ。と矢継ぎ早に叱咤をしてくれるんだろうな。
私はS課長のご家族とはまったく面識がないけれども、S課長の遺していった教えは確実に私の中に引き継がれているわけで。遺族の方の知らないところで故人の蒔いた種は何かの形で継承されているし、案外そういう要素によって世界は構成されているのかもしれませんね。それが不可視なだけで。
今日は休日なので、S課長にせめて及第点をもらえるように在庫整理をしようかな、と思います。